絵と文:エトブン社
2012年10月中旬、お天気の良い某日。
ガイドの坂本さんの案内でウヨロ川フットパスを歩きました。
今回のお目当てはサケの遡上風景を見学すること。
今回歩いたのは「トラストの森コース」。
馬たちが放牧されているオーシャンファームを出発し、
ウヨロ川沿いを上流に向かって歩いてトラストの森を目指します。
ウヨロ川フットパスについて:
ウヨロ川沿いに延びた手づくりの自然歩道。
牧場の一部や川沿い、森と季節によって多彩な表情の自然散歩を楽しめます。ちなみにフットパス(footpath)とは、地域の自然や歴史・文化資源などをつないで歩く道のこと。
http://www.shiraoi.org/trust/salmon/06_footpath.html
フットパスのコースについて:
全コースをフルに歩くと14km。時間や体力、目的に応じたコースをどうぞ。
歩きやすい恰好で行ってらっしゃ〜い!
http://www.shiraoi.org/trust/footpath/footpath2.html
フットパスの案内板
遠くの山々と放牧された馬たちが美しい。オーシャンファームから出発です。
牧場からの広大な風景(ホロホロ山)
オーシャンファームについて:日本で初めて引退馬の世話を手がけた牧場。かつての競走馬たちがのんびりと余生を過ごしていました。
http://www.shiraoi.org/trust/footpath/natural2.html
牧場沿いにすすみ、川に向けて遊歩道を進むとこんな標識が。見ると有刺鉄線が巻かれている柱もあります。
「放牧中の牛たちが体をこすって標識を倒しちゃうので、その対策なんです」と坂本さん。フットパス沿いに牛が逃げ出さないように、
歩く人だけが通り抜けられる階段も作られていました。
ここは牧場の一部を通らせてもらっている場所。
マナーを守って安全に楽しみましょう。
フットパスの階段
フットパスを歩くマナー: http://www.shiraoi.org/trust/footpath/rule2.html
木々を抜けると川のせせらぎが。ウヨロ川だ。え!あの黒い影が全部サケなんですか?ついに遡上風景が目の前に。 川音とともに、流れをさかのぼり飛び跳ねる音も聞こえます。この川で自然に生まれて大海で育ち、長旅を経てまた戻ってきたサケたち。想像以上に感動的な風景です。
ウヨロ川について:uyorogawa.html
海にいるときはほぼ同じ見た目のオスとメス。ところが、大人になり遡上してくる頃には川岸から見てわかるほどの違いがあります。 オスの体に入った紫色の模様がはっきり見えました。
サケ(手前がオス、奥がメス)
オス:鼻先が長くとがっている 体に赤紫の模様がある
背中の脂びれが大きく尾びれには三角形の切り込みが入っている
メス:鼻先が丸い 体に黒い線が入る 産卵前のお腹がふくらんでいる
産卵中のメスは川底を掘るため尾びれは白く傷ついている
時折メスが体を横に倒して「バシャバシャ」音をたてています。「湧き水を探して良い場所が見つかったら尾びれでジャリを掘ります」。 坂本さんの解説の通り、メスザケが掘ったジャリの中に産卵場所を作っていますよ。
産卵の近いメスを求めてオスたちが争います。体当たりに噛みつき、反則上等のプロレスのよう!勝ったオスはメスの産卵を急がせ、
準備ができたら産卵・放精をします。
「争いに負けたオスはほかのメスを探すのですが、体の色をメスのように変えて攻撃をかわし、放精するチャンスをねらう事もあるんですよ」。
川底をよく見ると産卵床が盛り上がって見えますね。
「メスは産んだらすぐにまたジャリをかけます」。
こうして外敵や紫外線から卵を守るそうです。
そのころオスはまた違うメスを探しに行ってしまうのだとか。こうして、できるだけ多くのメスに自分の子供を托すんですね。
上流へ進むと支流が流れ込んでいる場所がありました(イラスト内A地点)。すると細い支流を上ろうとする大量のサケの群れがギュウギュウに。 どうして太い本流で悠々と産卵せず、この細い川を行こうとするの?
坂本さんからのヒントは「この支流の上流にふ化場があるんです」。
そうか!正解は母川回帰でした。
つまり……
ウヨロ川は本流での自然産卵で海に出るサケのほかに、ふ化場から放流され、ウヨロ川を抜けて海に出るサケもいる。
外洋から迷わずに故郷の川へ戻ってくるというサケの本能は、放流された支流を探し当てるほど高い能力ということが目で見て実感できました。
サケは水の臭いをたよりにして間違いなく自分が生まれた川へ遡上すると言われています。しかし、遠く離れた北太平洋から、
臭いを確認できる沿岸までどうやって帰ってくるのか?太陽の位置?地球の磁気?海流?などで、自分の位置を確かめながら帰るという説があるようですが、
まだはっきりとはわかっていないそうです。
ウヨロ川とサケについて: http://www.shiraoi.org/trust/salmon/index.html
平均4年のサケの旅路。川からエサの豊富な海へ。数千kmも離れた外洋で大きく育ち、生涯で一度の繁殖期のためだけに母川へ帰ってくる。
命をつないだサケたちは力尽き、その姿は「ホッチャレ」と呼ばれます。
「体力のすべてを使って命を終えかけているサケは、疲れ果てた姿なのに美しく見えますね」。
サケを見続けている坂本さんのガイドを聞いて、サケは生涯の全部が子孫を残すことにつながっているんだなぁと感じました。
ホッチャレ(サケの死体)や卵は他の動物たちが冬を越す大切なエネルギーに。また、近くの森で分解された成分は、草木を育てる栄養となります。
森からの落ち葉が川の虫を育み、その虫がサケの稚魚のエサにもなるんですね。
サケの帰る川は生態系も豊かです。
タヌキがホッチャレを食べる様子の動画が見られます:
ivent/douga.html
ウヨロ川を後にして、トラストの森へ。木材生産のための育林と自然林の再生を目指して保全活動をしている人工林です。 よく手入れされたカラマツ林には間伐材を利用したログハウスも建っています。ここでしばし休憩。この森も川からの栄養で育っているのかな?
トラストの森(ウヨロ小屋)
フットパス案内板
トラストの森について: http://www.shiraoi.org/trust/morizukuri/forest.html
トラストの森を散策した後は、ふ化場を経由して、スタート地点のオーシャンファームへ。
途中、阿部牧場横を通って白老牛を眺めました(かわいい牛たち。この環境で育ってるからおいしいのね!)。
歩くだけなら1時間のウォーキングコースですが、サケや植物をゆっくり観察したり休憩しながら3時間以上の散歩を楽しみました。
ふ化場について:
http://www.shiraoi.org/satoyamaziten/culture/sangyo_sakemasu.html
ふ化場
白老牛(子牛)
出発地のオーシャンファームへ
■ まとめ
川岸や森を自分のペースで歩けるのはとても気持ち良いですね。一番印象的だったのはもちろんサケの遡上風景。
子どものころから聞かされていたサケの一生のクライマックスを実際に見られたことは感動的でした。
卵も身も大好物のサケ、それは自然にとっても貴重な資源だったんですね。ガイドの坂本さんが引用されていた「サケは川のミルク」という作家・開高健の言葉に納得。
健康な川が生き物を育て、森を育てる。ぜーんぶ、つながっていました。
(エトブン社)